★ 2000 のんびり・スイスの旅
スイス国旗  ◆ 24日目(8月3日) 小雨 【全体地図】 目次へ
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【本日の旅程】=アッペンツェル(泊)、→ザンクトガレン大聖堂→ザンクトガレン美術館訪問

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小雨に煙るアッペンツェルの町
 覚悟はしていたものの、やっぱり雨なんだーーとガッカリしてしまう。出来たら、メルヘンチックな風景に1日どっぷり浸かってみようと思っていたのであるが、こんな天候では仕方がない。古都ザンクト・ガレン<St.Gallen>を訪ねてみることにした。
 9時過ぎ、ホテルを後にした。駅まで、歩いて5分の近さである。駅前は少し高台になっており、町並の向こうに緩やかに続く丘が見えた。柔らかい色の緑の丘は小雨に煙って、一層心休まる優しい景色に見えた【写真】。こんな眺めもいいもんだな、と思い乍ら見とれる。9:38発の列車に乗り込んだ。


◆ ザンクト・ガレン <St.Gallen>
 牧歌的な景色は一変して大都会。ザンクト・ガレンも雨であった。バスや電車や人通りも多く、駅周辺はモダンな高層ビルが建ち並び活気に充ちていた。此所は、スイス東北部を占めるザンクト・ガレン州の州都である。8世紀前期の僧院に始まる歴史的古都として有名であるし、その旧市街はしっかり保存されているらしい。
 傘を持つ手が冷たくなった。スニーカーも雨に濡れ、低くなった気温に体も冷えてしまった。まずは駅前の公衆トイレで体勢を整え、オールドタウンの大聖堂を目ざすことにした。インフォメーションに寄って地図を手に入れたが、自信をもって歩くことが出来ず、通りがかりの婦人に確かめてみたらオールドタウンはすぐ近くであった。その中心、そこがザンクト・ガレン修道院(現在は州庁舎として使われている)であり、同じ敷地の南西側に建っているのが目ざす大聖堂であった。(1983年に世界遺産として登録されている。)


◆ ザンクト・ガレン大聖堂
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金箔が施された祭壇
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聖堂内正面
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天井の宗教画
 内部の美しさには驚かされた。そこには、飾りけのない外観からは想像も出来ない豪華な装飾が施されていた。祭壇には金箔が贅沢に使われており【写真左】、白い柱や壁を背景に気品ある光りに輝いていた。特に素晴らしいと感じたのは、明るいエメラルドグリーンの石材を使った沢山の装飾彫刻が、白い柱や壁に見事にマッチし、美しい気品をゴージャスに盛り上げていたことである【写真中】。半球面体になった天井には、リアリティーある宗教画が描かれてあり、十分宇宙空間を感じさせるスケールの大きいものであった【写真右】。しかし、故意に暗い色調で描いたものと思われる天井画は、荘厳さは優れているにせよ、いささか見ずらいものであった。窓の外には雨が降り続いていたが、聖堂内は意外に明るく聖なる静けさに満ちていた。音を立てないように移動する人影の中にあって、祈祷台に首を垂れ、一心に祈りを捧げている若い男性の姿が印象的である。此所は限り無く浄化された精神世界の空間である。僕らもしばしの間、浮き世の雑念を忘れ、この心安らぐ空間に浸っていた。
 この修道院に付属してヨーロッパ最古の図書館がある。蔵書数やその内容のすばらしさもさる事乍ら、建物内部の豪華な天井画や木材を生かした装飾・細工など、芸術的価値も高く評価されている世界遺産である。見学したいと思ったが、丁度休み時間に当たり、1時間以上待たねばならない。他に、是非訪ねてみたい所があったので、此所は次回の楽しみに残しておくことにした。


◆ ザンクト・ガレン美術館

ザンクト・ガレン美術館
 是非訪ねてみようと思ったのは、ザンクト・ガレン美術館である。先日、セガンチーニのアトリエ(10日目のページ参照)で彼の画集を見ていたら、何点かの作品にザンクト・ガレン美術館蔵と明記されていたのを、家内がしっかり記憶していた。例えば、代表作の1点『アルプスの真昼』【写真下】など、その実物を見るには又とない機会であると思ったのである。2時の開館時間に合わせて訪ねた。それは、少し街の中心から外れた静かな緑多い場所に建っていた(入館料:一人10SF)。
 まずは受付で確かめた。「セガンチーニの作品はありますか?」「ありますとも!」との返事に大喜びをした。実は、念の為アッペンツェルのインフォメーションでセガンチーニ作品の収蔵の有無を確かめたのだが、「今は無い」との返答であった。ザンクト・ガレンのインフォメーションでも同じであったので、大変心配しながらの訪問になったのである。彼の作品は、特別室にまとめて展示されていた。その入口には拡大された『アルプスの真昼』の少女が佇み、僕らを迎えてくれた【写真下左】。展示されていたのは彼の代表作も含めて10点のみであったが、各々珠玉の作品であった。
 許可を得てデジカメで撮影を試みた。スマートメデイアの容量は残り少なくなっていたが、出来るだけ高画質で撮影した。(これにより、この後の旅の画像は、殆ど記録することが出来なくなったが、記録しておきたい今回の旅は事実上此所で終りになると思ったのである。)
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セガンティーニ展示室入口
『アルプスの真昼』
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◆ 親切な応対に感謝する
 セガンチーニの一番の代表作は、『生』 『自然』(※4)『死』の三部作(※1)である。サンモリッツの湖畔に建つセガンチーニ美術館は、この三部作を展示するために建造されたものであり、円形の広い展示室でゆったり鑑賞することが出来る。三作すべて横3メートルを超える大きな作品であり、名実ともに彼のライフワークが結実した作品であると思う。彼の画集には、必ず収録されている作品であり、勿論絵はがきも然りである。しかし、この美術館には全紙大のカラーコピーが揃えてあった。3部作のうち『生』(※2)と『死』(※3)の2作を購入することにした。
『生』<Life>
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『死』<Death>
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 この2作のコピーの価格を尋ねたら、1枚30SF、3枚まとめて買うなら60SFにすると言う。欲しいのは2枚だが、40SFにしてもらえないか、セガンチーニの絵が見たくて日本から来たのだからと頼んでみた。受付のおばさんは、手を挙げて一度事務室に消えた。上司と相談をしてきたのか、おばさんはニッコリ笑って答えてくれた。「Friend price!」。何と優しく親しみ深い笑顔であったことか。心から「Thank you ! 」とお礼を言った。それにしても、雨の中、持ち帰るのが大変である。もう一人のおばさんも心配して、収納出来そうな筒を何本も探してきてくれた。二人のおばさんは懸命になって、雨に濡れてもいいように過剰な程にしっかり包装してくれた。
 こんなに心暖まる応対をしてもらえるなんて・・・思いがけない親切に気持ちは感謝と嬉しさで一杯、「日本にいては、絶対に体験出来ないことだろうね」と、語りあった。

※ 1 現在では、『生成・存在・消滅』の題名で一般化しています。
※ 2 『Life』 1896/1899、油彩、カンバス、190×322cm
※ 3 『Death』 1889/1899、油彩、カンバス、190×322cm
※ 4 『Nature』 1897/1899、油彩、カンバス、235×403cm



◆ 最後のディナー
 降り止まぬ雨の中、趣きのある旧市街を散策。5時過ぎ、ザンクト・ガレンを後にした。6時、ホテルに帰着。近くの店でお土産のチーズを買い足し、アッペンツェラーのビールも買う。スイスでの最後のディナーである。無事に帰国の日を迎えられる幸運に感謝しビールで乾杯した。日本から持参した食料の残りもの、赤飯や卵スープ・クッキーなどで質素に済ませる。仕上げは、緑茶。やっぱり緑茶はいい。気持ちの休まる思いがする。明日は、ひたすら帰国の旅に終始する。今夜のうちに荷作りも済ませておく。

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