2007アルプスへの旅

◆19日目(9月1日)曇り

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◆さようなら、エッツタール


黒いウサギ

 予報通り、やはり天候は良くない。チェックアウトを済ませて別れを告げる。外は、かなりの寒さであった。バス停までの坂道で、黒い小さなうさぎを発見(写真左)。思いがけない出会いであったのか、しばしウサギは動きを止めていたが、僕が動いたら植え込みの中に姿を消した。1昨日、僕らを見送ってくれた黒猫のことを懐かしく思い出していた。

 9時40分のバスに乗車。途中で、エッツタールカードのリファンドを申し出る。4ユーロの返却を期待していたら、バスの中では2ユーロだけになると言う。ちょっとがっかりしたが、それでもトータルすれば、いくらか得をしたことになる。充分な活用は出来なかったが、まあ、いいか。カードは返還させられた。せめて記念に、カメラに収めておけばよかったと思う。


エッツタール駅3番ホーム

 

 エッツタール駅3番ホームのベンチで、11時10分発の列車を待つ(写真右)。1昨日、インスブルックから乗ってきたのと同じ列車である。今日も遅れている。しかし、今日は6分の遅れでやって来た。


ブレゲンツ行き列車


 白いボディーに赤いストライプが美しいおしゃれな列車である(写真左)。此処からブレゲンツまで約2時間の旅。この区間を乗るのは、初めてのことである。

 

◆賢い雀


賢い雀

 13時12分、列車はほぼ予定の時間にスイスとの国境の駅ブレゲンツに到着。59分の待ち合わせでスイスの街:マルグレテーン行きの列車に乗り換えなくてはならない。下りたホームで待てばよいので、ホームの待合室に入ってドアを締め、他に客は居ないのでランチにした。すると、何処からともなく雀が1羽、足元に現れた(写真右)。目線を合わせて離れようとしない雀に、パンを小さくちぎって与えた。雀は我が意を得たりと首を振り乍ら美味しそうに食べた。ふと気が付くと雀は2羽に増えていた。はて、何処から??改めて注意深く見回してみたら、地面と板壁との間に、ネズミが通れるほどの隙間があった。雀は、この隙間から出入りをしていたらしい。それにしても、賢い雀である。待合室に人の気配を感じてやってきたのは、此処に生きる雀が学習した生活の知恵ということであろう。ランチが終わった時、雀の姿は消えていた。

◆アア!やってしまった!

 待ち時間は、まだ30分余り残っている。「接続表を貰ってくる」と、家内は一人エスカレーターに乗って切符売り場へ出掛けた。待合室に一人ぼんやりしていてもつまらない。カメラを手にホームに出てみることにした。荷物はこの待合室に置いておいても大丈夫だろうな・・・、そんな思いで確認した。キャリーバック2個と家内のリュック・・・ナニ!! 其処に在るべきはずの僕の黒いリュックが見当たらないではないか。エーッ・・・!一瞬、目の前が白くなる。脳天から血が引くのが分かる。傍目には顔面蒼白になっていたのではないだろうか。その昔、お金やパスポートを入れたバックを置き忘れたことがあるが、その時に比べればダメージは小さい。されど、今日まで描きためたスケッチブックをなくしたのでは、今までの旅の成果が台無しである。いろんな思いが、怒濤のように押寄せる。あってはならないミスをやらかしてしまった!旅の最後になって、どうしてこんなことを!・・・無念やる方なしである。

 直ぐに、車内に置き忘れてきたことに思い至る。そうだ、棚の上に置いたのだった。ホームに飛び出してみたら、何と、列車はまだ其処にいてくれた。そうだ、この列車は、この駅が終点だったんだ、助かった!
 飛び乗る寸前、躊躇した。動き出したらどうしよう・・・?ドアが閉まったら、どうしよう・・・? 駅員の姿を探したがホームには誰も居ない。ままよ、運を天に任せて飛び乗った。自分の座席は直ぐに分かった。素早くその上の棚を見たが何もない。冷静に見直してみると、客車の中は奇麗に整理整頓されていた。一番最後に下車したのだから、盗まれた心配はない。駅員が保管してくれたんだな、と確信。それだけを確かめて素早く飛び降りた。その間、ものの5・6秒ではなかったかと思う。幸運にも、ドアはまだ開いたままであった。改めて、重なる幸運に安堵の胸をなで下ろす。駅員が見つかったので、事情を説明した。駅員はインフォメーションに行け、と言う。列車は音も無く動き出した。
 荷物を放置したまま動くのはためらわれたが時間がない。家内のリュックだけ担いでエスカレーターを駆け上がった。丁度、其処に家内が帰って来た。事情を了解した家内は急ぎ引き返して行った。
  待合室とエスカレーターの下を行き来し乍ら、落ち着かない気持で待つ時間の何と長く感じられたことか。間もなくエスカレーターの上に家内の姿が現れた。胸の前に両手でマルのサイン。肩には、僕の黒いリュックがあった。ヤレヤレである。

◆アッペンツェルへ

 マルグレテーン行きの列車は、やや遅れて到着した。十数分乗るだけだが、途中で国境(オーストリアからスイスへ)を越える。拳銃を腰に下げた制服の役人二人が乗り込み、パスポートチェックをしていたが、僕らには何も要求しなかった。日本人とみて信用してくれたのであろう。

 マルグレテーン駅で再度乗り換える。今度は、ザンクトガレン行きである。駅前広場では、土曜の市が開かれていた。大きなカウベルが眼に入って、スイスに来たことを実感する。しかし、のんびり眺めている余裕はなかった。スイスの列車は時間に正確だ。待ち合わせ時間は11分。移動に4・5分はかかる。列車の待つホームへ急いだ。


待っていてくれた運転手

 ザンクトガレン駅には、15時07分発アッペンツェル鉄道の列車がすでにスタンバイしていた。アッペンツェルまでの所要時間は44分。トイレをすませておく必要がある。運転手に尋ねると、この列車にはトイレが無い、と言う。時計を見たら、発車まで3分。 「待っていてくれる?」 「OK」  荷物だけ列車に乗せて、運転手の指差す方へ二人で走った。運転手は待っていてくれた(写真左)。乗車する僕らを見て手を振り発車した。

 アッペンツェルを訪ねるのは、これで3度目(家内は4度目)。赤い列車が懐かしい。運転手の優しさも心に沁みて嬉しく思う。アッペンツェルは、心安らぐ街、格別に親しみを感じる街なのである。


アッペンツェル駅舎

 15時51分、アッペンツェル着。通りに出ると植え込みに咲く奇麗な花々が迎えてくれた。振り返って見ると、変わらぬ小さな駅舎が懐かしい(写真上、右)。取りあえず、今日の宿を決めておかねばならない。真っ直ぐ(i)に向って坂を下る。

 


駅前の植え込みは花いっぱい

小人たち

 途中、小人の人形を売っている店に立寄った。店の前に沢山の小人が並べられており、屋根には白雪姫と7人の小人。その横で小熊がシャボン玉を飛ばしている。以前と変わらぬ眺めに旅の疲れも癒される思いがする(写真左)。店の周辺は、今までになく大勢の観光客で賑わっていた。少しいつもと様子が違うな、と思いながら(i)へ。

◆全てのホテルが満室だなんて!

 ホテルリストを貰い、様子を尋ねて驚いた。今日は、この近辺のホテルは全て満室だと言う。いつだって自由に宿を選ぶことが出来たし、苦労したことなんてないのに・・・全く予想していなかった事態に、しばし、呆然である。「馬小屋の藁の上に寝るのでも良ければありますが・・・」それも面白いかな・・・、と、ちょっと思ったが辞退。
  「アルトシュテッテンまで行けば泊れる」という(i)の提案に従うことにする。ホテルSonneに問合せをしてくれた。受け入れ「OK」の返答に、やむなく「予約する」と返事。此処から、更に列車で1時間移動しなくてはならない。
 思いもかけない成り行きになってしまったが、気まま旅には付き物のリスク、これまた楽しからずや、である。賑わっている街中を、いささか恨めしい気持を抱えながら、小人たちに「又明日!」と挨拶。再度スーツケースをゴロゴロ引きずり、来た道を駅へと引き返した。

◆アルトシュテッテンへ


田園風景
 16時38分発の列車でGaisへ。此処で乗換え、目的のAltstattenへ。この区間の景色が素晴らしい(写真上、下)。

Gais駅

田園風景

線路の近くで野生の鹿たちが遊んでいた

Alt stadz駅は、路面電車の停留所と同じだった

 幾度もこの地を訪ねたくなるのは、この牧歌的な景観が忘れられないからともいえる。 見とれているうちに、Alt stadz駅に到着した(写真右)。

 さて、ここからホテルまでの道順が分からない。(i)でもらった予約票を近くにいた女性に見せて聞く。幸いなことに地元の人だったらしく、親切に教えてくれた。その上、ホテルが見えるところまで付いて来てくれた。優しい親切が心に沁みる。

 お蔭でホテルSonneには容易に辿り着けた。案内された部屋は311号室。

ホテル・ゾンネ

洗面所に置いてあった人形
 窓を開けると、趣きのある旧市街の景観が眼に飛び込んできた。歴史を感じさせる赤錆びた屋根の重なりと、遠景に広がる緑の草原との対比がなかなかに美しい(写真下)。早速、椅子を引き寄せスケッチブックを拡げた。
 間もなく、教会の鐘が鳴り始めた。なかなか鳴り止まない。「特別な礼拝でもあるのかな?」一人、家内は出掛けて行った。鐘は30分も鳴り続けたが、何故なのかは分からない。7時まで描いていたが、薄暗くなってきたので未完成のまま終りにする。

部屋の窓から旧市街の屋根が見えた

 ディナーの後、大阪世界陸上の女子マラソンをスタートからゴールまでテレビで観戦。中盤までは大いに期待を持たせる競り合いであったが、終わってみれば土佐選手が3位に入賞しただけ。残念ながら、日本勢は振るわなかった。北京オリンピックを控えているからであろうか、2位になった中国選手の健闘が光った。


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