2007アルプスへの旅

◆20日目(9月2日)晴れ

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◆朝のアルトシュテッテンを散策する


日曜日、朝9時。まだ町に人影はない。

 8時半、朝食。
 9時、思いがけない成り行きではあったが、縁あって泊ることになった街だから、せめて旧市街の顔だけでも見ておこうと、カメラだけもってホテルを出た。日曜日の朝だからだろうか、まだ街に人影は少ない(写真左)。建物の壁に記されている西暦数字を見ると、古くは1272年とある。そうなの! と改めて見直したりした。

 小さな広場を取り囲むように建ち並ぶ家には、妙に歪んだものがあったり、鋭い切り妻屋根もさることながら、最上階の窓の装飾がそれぞれに趣き深くて面白い(写真下)。


広場を囲む建物、最上階の窓が面白い。

切り妻屋根と個性的な窓


切り妻屋根と個性的な窓(左から2番目と右端の建物ははっきり歪んでいる)

アーケード状に石柱に支えられて立ち並ぶ家々にも、中世の香りが色濃く漂っているように感じられた(写真下)。


アーケード状に石柱に支えられて立ち並ぶ家々

日曜日朝のミサに町の人々が集まって来た

 近くで教会の鐘が鳴り始めた。鐘の音は,静かな街に落ちて波紋となり街中に広がっていった。音に誘われるように、正装した人々の姿が現れ、教会の中へと消えて行く。僕も、その流れに乗ってみた。堂内は清々しい空気で満たされており、祭壇は簡素ながら格調高いものであった(写真左)。人々は正面に向って軽く一礼すると、静かに空いている席に向う。その流れは途切れることがなく、全ての住民が集まってくるのではないかと思われた。まもなく、日曜のミサが始まりそうだ。部外者の僕は、そっと外に出た。

◆「何と愛らしいのだろう!」


Altstatten Stady駅ホームにて

 10時半、アルトシュテッテンに別れを告げ、昨日来たルートを逆に辿る。

 駅のホームに居た地元のファミリーと交歓。可愛い女の子二人の父(トマス)と歓談。一緒にガイスへの列車に乗り、隣り合わせに座ったので、記念に可愛い女の子の写真を撮らせてもらった(写真下)。


駅構内に移動図書館の車両が停まっていた

ガイス行き列車の到着

トマス親子と
  彼は笑顔でEメールアドレスのついている名刺を差し出し、ファミリー5人と共に次の駅で下りて行った(帰国後、この時の写真をメールで送った。彼からは、すぐに感謝一杯のメールが飛んできた。"僕の娘は,何と愛らしいのだろう!"と)。

トマス氏の娘二人

◆再度アッペンツェルへ


アッペンツェルの田園風景(車窓から)


アッペンツェル鉄道乗車を記念して

 11時20分、アッペンツェルに帰って来た。今日は、アッペンツェルらしい景観を1枚、絵に描いておきたいと思う。大型コインロッカーは全て使用中なので、駅員に頼んだら事務室で預かってくれた。身軽になって街を散策。今まで気付かなかった面白い建物との出会いがあった(写真下)。


伝統的行事と郷土色豊かな衣装が美しい

 小人の居る店の前の広場には沢山の椅子とテーブルが並べられ、その上には飲み物も並べられていて、大勢の人々が集まって特別のイベントが始められようとしていた。今日は,日曜日でもあり、昨日に倍する人々で街は賑わっていた。昨日、全てのホテルが満室であると断られたのはこの催しの所為だったのだな、と推測する。

 僕がスケッチポイントを探している間に、家内は定宿にしているホテルを訪ね、街の様子を聞いてきた。確かに昨日は満室だったが、今夜は空室あり、と。沢山の人が集まったのは、街の記念イベントとゴルフ大会の開催があったかららしい。今夜の1泊を確保した。

 街のメインストリート:ハウプト通りを歩くと、店の軒先に飾ってあるユニークな看板が目につく。店の営業案内を示すものだが、先ずは愛らしさを強調しているようだ。前回の旅の日記にも取り上げたが、今回も幾つかまとめてUPしておくことにした(写真下)。新しく見付けた看板もあった。


軒先を飾るユニークな看板


軒先を飾るユニークな看板

◆高級ホテルのテラスを独占

 町の中心であるランツゲマインデ広場に面して、4っ★のホテル:センティスが在る(写真下)。 街一番の高級ホテルである。

ゲマインデ広場。この広場では毎年4月、腰に短剣を下げた男たちが集まり、青空議会が開かれているという。

楽しい窓の装飾

 その横を通り過ぎてから、ふと見上げると5Fにテラスがあった。「彼処からの展望はいいだろうなぁ・・・宿泊者ではないから無理だろうけど」と、呟いた。「ダメモトで聞いてみるわ」ホテルに出向いた家内は、直ぐに玄関から出てきた。「使わせてくれるって!」と、にっこり。このホテルとは姉妹関係にあるホテル・ヘヒトの宿泊客であるという事が決め手になったらしい。そのテラスはプライベートな場所であったが、男性オーナーは「何時間使ってもいいよ」と、笑顔で許可してくれたと言う。幸運と好意に感謝。早速、椅子やテーブルも使わせてもらい、誰に邪魔されることもなく、集中して写生に取り組むことが出来た(写真下)。およそ3時間後、オーナーのHeeb氏に完成した絵を見せて、丁重にお礼をのべた。


テラスからの眺め


アッペンツェル風景

◆10人目の小人


教会前の広場では、楽団の演奏が行われていた

 15時半〜、ハウプト通りをゆっくり見て歩く。小人の居る広場では,吹奏楽の演奏をしていた(写真右)。これも、今日のイベントの一つであったらしい。


今回、連れ帰って来た笛を吹く小人

  今回は、一人だけ小人を日本に連れて帰りたい。少し迷ったが目を閉じて笛を吹く小人に決めた(写真左)。これで我が家に集う小人たち、丁度10人になった。

◆「今日は私のbirthday!」

 駅に預けた荷物を引き取りに行く。料金を尋ねたら、「いらないよ」と、駅員。ローカルならではのサービスである。「ロッカーの空きがなくてよかったネ!」 嬉しい気分でホテル・ヘヒトに向い、チェックインする。驚いたことにフロントに居たのは、ホテル・センティスのオーナーHeeb氏であった。家内に向って「Happy birthday!」と、笑顔で言ってくれた。先刻、ホテル・センティスでお礼を言った時、「今日は,私のbirthdayなのですよ!」と話したのを、ちゃんと覚えていてくれたのだ。些細なことではあるが、そんな心の繋がりが嬉しい。テラスを使わせてもらったお礼の気持もあって、今夜は、ホテル・センティスのレストランで、Happy birthday! の乾杯をすることにした。

◆名残を惜しむ

 5時、まだ午後の陽は高い。部屋に荷物を置いて、また直ぐに外に出た。ホテルの前に建つ教会の墓地からの眺めがいい。この地方ならではの牧歌的景観は、何度みても心和む眺めである。そんなビューポイントに、花や彫刻も添えられた墓碑が整然と並ぶ。美しく手入れされた広い墓地の中を、ゆっくり動く人影は縁故の人たちであろう。心癒される思いで,僕らもしばし時を忘れて公園のような墓地の中を散策した。

聖マウリティウス教会

教会テラスからの眺め

墓地に咲いていた花

 生まれてすぐに亡くなったらしい子供の墓には、可愛い玩具が供えられていた。新しい墓碑の前で長いこと佇んでいる親子がいた。墓石には女性の写真があり、刻まれた数字をみると2007とあった。今年になって母親を亡くした娘と孫であったらしい。母と子の心の絆を見たように思う。沢山の花があったが、赤や黄色の中にあって薄紫の花がひときわ心にしみて美しいと思った(写真左)。

 午後の陽を受けて静かな時が過ぎて行く。この街とは、これが最後になるかも知れない。そんな思いが心をよぎったりして、なかなか去り難い。今回も教会の中に入ってみた。左右の窓には、キリストの受難の物語がステンドグラスに描かれており、荘厳な祭壇と気宇壮大な天井画も改めて立派なものだなあ・・・と思う(写真下)。


聖マウリティウス教会内部

壁面に並ぶステンドグラスの窓

スイス最大とも言われる天井画

壮大なパイプオルガン

◆birthdayディナー

 7時〜。家内のbirthdayを祝う為、人影の少なくなったハウプト通りをぶらぶらしながらホテル:センティスに向う。暑かった昼間が嘘のように肌寒い。
 今夜のbirthdayディナーは特別である。リッチにワインをオーダーして乾杯しようと思っていたのだが、救急病院での医師の言葉が思い出されたらしく、僕の健康を気遣う家内は「又の日にしましょう、そんな気分ではないから」と言う。原因は僕にある訳で、いささか情けない思いで同意する。ワインのつもりがミネラルウオーターに替わり、料理も二品だけで我慢する淋しいものになってしまった(写真下)。ま、仕方がないか。

淋しい今夜の高価な料理

◆二人の老婦人

 レストランは閑散としていた。質素な身なりの年老いた二人連れのご婦人がやってきた。一番明るい照明のテーブルについた二人は早速メニューを手に取り、一人は眼鏡を取り出し共に真剣な表情である。グルメな食通なのだろう、と思った。間もなく注文の料理が運ばれてきた。途端に、パッと二人の顔が輝いた。予想に反して一皿だけの料理であった。静かな会話は聞こえて来ないが、如何にも満足げに食事を楽しむ姿が印象的である。二人の眼中に、僕らの姿はなかったと思うが、幸せそうな二人の姿が何故か心に焼き付いた。二人はそれぞれに財布を取り出し、支払いを済ませると静かに立ち去った。開けたままになっている入口ドアから冷えた夜風が流れ込んできた。盛り上がらないbirthdayディナーが終わり、僕らも早目に切り上げた。


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