◆エッツタールへ
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10時、チェックアウト。カウンターの篭に盛られていた青いリンゴを二つもらって外に出たら雨。タクシーを使うしかないな、と思い空車が通るのを待った。こんな時に限って、なかなか来ない。カウンターのお姉さんがやってきて、電話でタクシーを呼びましょう、と言ってくれた。駅までワンメーター(5.2ユーロ)であった。
4番ホームでブレゲンツ行きの列車を待つ。今日の目的駅はその途中にあるエッツタール。10分の待ち合わせでバスに乗換え、セルデンに向う計画である。ところが、予定の時間になっても列車が来ない。心配になって駅員に尋ねると、2・3分遅れている、と言う。今日は、乗換えの時間が短いので列車の遅れが気にかかるのだが、その程度なら何とかなるだろう。
線路に茶色い鳩が一羽居た。珍しいのでカメラを向けたら飛び去った。その方向に、この街の観光名所にもなっているスキーのジャンプ台が見えた(写真下)。
線路の上に珍しい色のハトがいた |
小雨に煙る山頂にスキーのジャンプ台が見えた |
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遅刻してやってきたブレゲンツ行き列車 |
その下から遅延した列車がやって来た(写真左)。結局、列車は10分遅れで発車。この国の列車は、時刻表通りに動かなくても気にしないらしい。
最初の停車駅がエッツタールであったが、遅れた時間を短縮することもなく10分遅れのままで到着した(写真下)。接続するバスの時間は過ぎていたが、2・3分の遅れだ。若しかして待っていてくれるかもしれない。バス停留所へ急いだ。しかし、バスはバス。列車の遅れなど気にかけないで、時刻通りに発車したらしい。やむなく次の便を待つ。
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雨上がりのエッツタール |
エッツタール駅 |
エッツタール谷は、イン川に流れ込む支流の中で最も奥深い谷であり、最奥にはイタリアとの国境に近いオーバーグルグルという村がある。10年前、レンタカーで訪ねようとしたが、雨天の為断念した村である。入口となるエッツタール村から凡そ50kmの道程の両側には2000〜3000m級の山々が連なっており、スキーのメッカとして開発が進んでいる谷でもある。其の中心になるのがセルデン。
12時、バスは時間通りに発車した。谷筋に点々と大小の村が現れる。しっとりと潤った緑の美しさを眺めているうちに、バスはセルデンに到着した。所要1時間余。さて、これから、今夜の宿を探さなくてはならない。降り立ったバス停の前に旅行社があったが、2時まで昼休みという。裏手を見上げたら、急な坂道を上がったところにホテルAlpina(4★)があった。直接打診してみる。見晴らしの良い空き部屋を確かめて、即決。チェックインを済ませる(写真下)。
坂道の上にホテルAlpina |
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チェックイン |
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ベランダからの眺め |
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ホテルの隣りに教会と学校 |
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◆チロル風民家を訪ねて
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「今宵はオーストリア料理のお楽しみ」 |
ディナーをお願いしようとしたら、今夜だけは受けられないという。しかし今夜は、山の上のレストランでチロル音楽とダンス付きの夕食会が、たったの8ユーロで開催されることになっている。バスの送迎もついているが、どうだ、と勧められた。ダンス付きとは、土地の舞踊を鑑賞出来るということだろうか? 詳細は分からないが、楽しそうである。喜んでOKする(写真左)。
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セルデンに来た目的の一つは、チロル風民家を訪ねることにあった。しかし、見回してみても、それらしき家並が見つからない。フロントで聞いたら、Ventの村がお勧めだと言う。フェントタールの最奥、登山基地として人気がある村らしい。時刻表を調べたら、直通バスで30分。6時までには帰ってこれそうだ。すぐに出発した。
バスは定刻通りに出発、中型バスだが、乗客は我ら二人だけ。行き先を告げると、バスは蛇行する山岳道路をノンストップ、かなりのスピードで走り抜け、20分余りで到着した。バス停を中心に立派なホテルが数軒立ち並び観光案内所もあった。小さな集落ではあるが、観光シーズンには賑わう村なのだろう。バス停の近くに日常の暮しを感じさせるチロル風民家は見当たらない。少し散策してみることにした。
奥に向って100m位歩いたら、頭上に動くリフトが見えた。リフトの上方は雲の中に消えていて何も見えない。50m位下方にリフト小屋が見えた。側の駐車場には数台の車が見えたが、人影はない。近くにポツンと小さな村の教会堂が見えた。近づいてみようと斜面を下ったら、雨が降り出した。
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◆黒猫
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遠くから黒猫が一直線にやって来た |
教会堂に繋がる道の向こうに黒猫が現れ、僕らに向って真っ直ぐ歩いて来た。まるで、待ち受けていたかのような歩き方である。黒猫は、少しのためらいも見せずに近寄ると、ぼくの足に体を摺り寄せ親しみの気持を示す。思いもかけない出会いであった。「出迎え、ありがとう!」 黒猫の歓迎にうれしくなる。飼い猫であろうか、毛並みも奇麗な黒猫であった(写真右、下)。
足にまとわりつく |
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教会堂の軒先を借りて、雨宿り。寒くもあり、雨具を取り出して着込んだ。黒猫も一緒に付いて来て雨宿り。濡れた体の手入れに余念がない。サンドイッチの残りがあったので、黒猫に声をかけたら、自分も食べたいと真剣な顔で迫ってくるので少しだけ分けてやり一緒に食べた(写真下)。
「食べたいよう!」と真剣な表情 |
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美味しそうに食べた |
食べ終わって口の回りを奇麗にする |
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家内と一緒に雨が止むのを待つ |
雨はなかなか止まない。座り込んで溜息をつく家内の横に座った黒猫も一緒になって雨の止むのを待った。しばらくして小雨になったので道に降り立つ。黒猫も一緒に立ち上がり、今度は家内の足にスリスリ(写真左、下)。
さあ、出掛けますか 家内にもスリスリ |
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横一線に並んで橋を渡る |
歩き始めると、黒猫も付いて来た。橋も一緒に渡った(写真右)。
坂道も離れずに歩いたが、村はずれに来た時、黒猫は歩くのを止めた。声をかけるのはやめて、そのまま歩く。振り返ってみると、道の真中に座ったままの姿勢でこちらを見ている黒猫の姿があった。「一緒に歩いてくれてありがとう」。そんな気持でカメラに収めた(写真下)。
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坂道も一緒に歩いた 黒猫は常に道の端を歩く |
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道の真中に座り見送ってくれた |
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坂道を更に少し上がった斜面に、清楚で感じの良いペンションが建っていた。窓の装飾がおしゃれである。白い壁に描かれた絵もアルプス風であり、花飾りのあるヴェランダが付けられた造りは、この地方の典型的な様式であろうと思う。建てられてまだ日が浅いようだが、幸せな生活が息づくチロル風民家といえそうである。
山腹に建っていたペンション |
おしゃれな窓の装飾 |
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壁画 |
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来た道を見下ろしてみたら、バス停付近の集落や小川、雨宿りをした教会堂、黒猫と一緒に渡った橋や坂道などが一望出来た(写真下)。動かずにいると、寒さが身に沁みて来る。帰りのバスの時刻を考え、引き返すことにする。
Vent村 |
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◆水車小屋とうさぎ
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川の近くに来た時、朽ち果てる寸前の水車小屋を見付けた(写真下)。水車は半分地面に埋もれていたが、よく見ると、その下には川の流れがあったことを思わせる深い溝が残されていた。使われなくなって、どのくらいの年月が経っているのであろうか。建材の様子からみてその年月の長さとこの集落の歴史が偲ばれた。
水車小屋 |
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水車小屋の近くには、同じように古さを感じさせる倉庫や住居が残されていたが、そのすぐ側に建つ新しい建物とはあまりにも調和のとれない眺めであった。その一角に、うさぎが居た(写真下)。近づくと、最初はつぶらな黒い瞳でしっかり見られてしまったが、危害を加える人間ではないと判断したらしく、逃げることもせず気ままに動き始めた。しばしその可愛いしぐさに見とれてしまった。都会では、絶対にあり得ない出会いであり、心癒される思いのひとときであった。
うさぎ |
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◆教会
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展望の良い村の玄関に建っていた |
雨宿りした小さな教会 |
バス停の近くに、立派な教会が建っていた(写真上)。バスで上がって来た時、最初に見えたのがこの教会であったから、村の入口に建っていると言うべきか。珍しいことである。村の宣伝用パンフの表紙を飾っているのもこの教会だったから、村の顔とも言えそうだ。本来は、あの雨宿りをさせてもらった小さな教会堂(写真右)が村の中心であり、村人の心の拠り所だったのではないだろうか。しかし、あまりにも貧相だから、観光用としても新しく建て直す必要に迫られたのではないかなと思った。外観は美しく整った教会であるが、真に村の顔となるには、まだまだ長い時間を必要とすることだろう。教会の周囲には可憐な花が咲いていた(写真下)。
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新しい教会の側に咲いていた花 |
帰路もほとんどノンストップ。一人だけ少年が同乗していたが、途中、少年の要望でバス停ではない場所で停車した。少年は手を振って下車。中年の運転手も笑顔で応えていた。いかにもローカルらしい眺めである。到着予定の時間より5分早く、ホテルにも余裕で帰りつくことが出来た。 |
◆「今宵はオーストリア料理のお楽しみ」
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5時50分。寒さに備えて、一枚余分に重ね着をしてホテルを出た。バス停には、すでに10人位の人たちが待って居た。送迎バスは5分遅れてやって来た。すでに沢山の人たちが乗っていて満席状態。我々を乗せると、バスは会場に向って出発。会場になる場所は知らされていないので、ミステリーバスに乗っているような、わくわくした気分を楽しむ。
バスは山道に入り、ぐんぐん高度を上げて行く。何処まで登るのだろう。ヘアピンカーブを曲がる毎にセルデンの街が小さくなって行く。霧が出て来た。街から見上げていれば、多分バスは雲の中に消えて行ったのだと思う。前方の視界も悪くなった。突然霧の中にスキー用リフトの椅子が見え、リフト小屋も現れ、ホテルらしい大きな建物の前でバスは停車した<後刻、調べて分かったことだが、此処はホッホセルデン(2090m)だった>。しかし、会場は此処ではなかった。
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コメントぬけ |
案内人の後について、霧の中を会場へ向う(写真左)。かなり急な坂を登ったり下ったり。息がきれた頃、会場<ヒュッテ・レストラン、Sonnblick>の玄関に辿り着いた。
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歌と演奏で歓迎してくれた |
入口では、アコーディオンとギターのデュオの演奏に迎えられ、若い女性からウエルカムドリンクのグラスを渡された。それぞれ指定された席につく(写真右、下)。
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指定席が用意されていた |
間もなく次々と曲目を変え乍らの演奏をバックに、夕食会が始まった。料理はすべてセルフサービス。野菜を好きなだけお皿に盛り、あらかじめ調理されている肉料理の中から好きなものを好きなだけ選んで食べるという仕組み。前菜に始まりデザートで締めくくるというフルコースが用意されていた。それぞれ、充分に食欲を満たすことが出来たように思う。
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食後、楽しそうに踊る人たち |
お酒を飲み、会話も弾み出した頃、演奏する曲に合わせて踊り出すカップルが現れた。踊るカップルは次々と増え、夕食会は盛り上がりをみせた(写真右)。Tyrorian
Evening というのだから、民族舞踊も見られると思っていたのでがっかりしたが、宿で聞いた説明の中の「dance」という言葉は、このことであったのか、と理解する。その言葉に過剰反応してしまったらしい。考えてみると、たったの8ユーロでそこまで期待する方が間違っている。楽人の歌・演奏付きで食べ放題、というだけでも信じられない安さではないか。
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ドイツから来たファミリーと |
家内が来る途中で親しくなったドイツから来たという女性と、そのファミリーとの記念撮影をしたら、ファミリーの主人が君も一緒に入った写真を撮るから、カメラを貸せ、と言う。断ることも出来ずに、一緒のテーブルに座った(写真上)。気持の良いファミリーであった。
飲み物は別料金であったが、隣りの席に座った青年たちは、大ジョッキのビールを3杯飲み、肉料理を何度もお代わりし、デザートのお菓子も美味そうに食べていた。大きな体を維持するには必要な量かもしれないが、若者の食欲には圧倒されてしまった。ちなみに、今夜、僕のお腹に収めた量は、彼らの10分の一にも満たないものだったと思う。何せ、飲みたいビールも食べたいお菓子も我慢したのだから。
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民族衣装の娘さんと |
夕食会は、9時過ぎに終了。最後は少しだれてしまったが、楽しい夕食であった(写真左、下)。深い霧の中を歩き、待っていたバスに乗って帰路につく。バス停で一緒に下りた人たちは、すべてホテル・アルピナのお客であった。
夜霧の中、バスに乗り込む |
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