デイープコーブ桟橋に待機していた船に乗り込み、いよいよダウトフルサウンドのクルーズが始まった。時計は、もうすぐ12時。席に落着いた乗客は、各々持参の弁当や箱入りランチを開けて昼食を始めた。僕らもピクニックランチを開けて一緒に食べた。天候は一向に良くならない。
ダウトフルサウンドとは、「疑わしい入江」という意味である。かってイギリス人探検家キャップテン・クックが、この沿岸にさしかかった折り、複雑に入り込んだフイヨルドの姿を見て、船を進めるのをためらった。深い入江に入ってしまうと、再び外洋に出てこれるか疑わしいと思ったからだそうだ。地理的に一般の道路が通じていない為、観光的には未開の場所であり、神秘的で自然な姿を保っていると感じた。
クルーズ船は、湖の様に静かな水面に長い航跡を残し乍ら、外洋に向かって高速で走った。舷側に立ち、その航跡を見ていてその色に奇異なものを感じた。美しくないのである。泡立つ水は、薄茶色に近いものであった。後刻、パンフレットの解説を読んでその謎が解けた。
山々に降った雨水が、その林床にあるタンニンという物質やその他の有機物を溶かし乍らフイヨルドに流れ込む訳だが、この水は海水よりも比重が軽いので、海水と融合することは殆どなく、水面に層を形成して流れているからなのだそうだ。
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