★ 2001 『K2』へ〜 パキスタン(カラコルム)訪問の旅
 ◆ 4日目(9月3日) 【旅の全体地図】 目次へ
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【本日の旅程】=ラマ・レイク→デオサイ高原

 予定としては、ラマ・レイクで夜明けを迎えようということにしていたのだが、残念ながら雨である。しばらくして小降りになったが、計画は取り止めた。その分、ゆっくりした朝食を済ませてホテルを後にした。

8:00 ホテル発
8:45-8:48 アストール分岐 昨日通過したアストールまで引き返し、改めて南の方角に向って走り始めた。
9:35 グリコット


◆ グダイ村
 山懐深く入り、断崖の道のつづら折りを登りきった所に小さな集落があった。Gudai村である。道に沿って家並みが続き、商店も並ぶ道端には靴を修理する男の姿が在った【写真1】。もはや日本の道端では絶対見かけることは出来ないだろうが、この国では、履物にしても全て徹底的に使い切るのが常識になっているから、道端の職人はなくてはならない存在なのである。

1. 靴屋さん

3. グダイ村の集落
2. 出会った男→

4. ロバに乗った村人
 村はずれで小休止をしていたら、馬に乗って通りかかつた青年が立ち止まり、好奇心一杯の表情でジープの中を覗きこんだ。珍しい異邦人との出会いを、そしらぬ顔してやり過ごすことは出来なかったのであろう。言葉の壁があったのは残念であるが、青年はニコリともしないで観察に一生懸命であった【写真2】。村の青年たちにどんな報告をするのだろうか。

 崖に迫り出すようにして造られているこの集落の周囲には、痩せて乾いた山肌しかないように思われた【写真3】。つまりは、一息入れなくてはならない峠の宿場町として生きている集落なのだろう。そこを抜けると穏やかな谷筋になり、流れる小川に沿って草木があり畑があり人家が点在していた。ロバの背に揺られながら悠々と行く男とすれちがった【写真4】。その姿には、少しも先を急ぐ様子がなかった。緩やかに流れる時間に包まれて、男は幻のように消え去った。

◆ チラム(Chilam)のチェックポスト 12:05-12:12 (3,406m)
 此所は警察官が駐在する検問所であり、写真撮影禁止の看板が立てられてあった。日本語で書かれていないのをいいことに、そっと1枚だけ撮らせてもらったのが、左の画像である【写真右】。何故、撮影禁止なのか分からないが、禁止というからには隠しておきたいものがあるのであろう。それは、この建物を中心とした施設のことだろうと思われたが、それをどうして隠す必要があるのか、分からなかった。隠しておきたいのであれば、道に面した場所に建てておかなければいいものを、と思う。とは言え、監視の眼がないことを慎重に確かめた上での撮影である。少し緊張してしまった。書類のチェックが無事終了して再スタート、いくらも走らないうちに又してもストップ。
チラムのチェックポスト(検問所)→

◆ デオサイ(Deosai)高原国立公園入り口【写真6】 12:18-12:24
 公園入り口にゲートがあり、ゲートサイドに張られてあるテントで入園料を徴集しているらしい。それにしては時間がかかり過ぎると思い前方を見たら、子供を抱えた地元の女性の姿があった【写真7】。我々のジープに同乗させてほしいということらしい。話し合いに少し時間を取られてしまった。目的地が違っていたからであろうか、結局、諦めてもらったようだ。以前にチトラールの辺境地区をジープで旅した時に、同じような経験をしたことがあるが、その時は、当然のように同乗することを受け入れた。それにしても、相手が女性であることは、極めて珍しいことである。
 公園に入ってまもなく、岩山の山麓に小さな集落があるのを見た【写真8】。意外な景観であったので、ジープを停めてもらった。近くに谷川があり、少しだけ緑地もあったが、周囲は乾いた山地が広がるだけのこんな山奥にどうして人の住む集落があるのであろう。此処に住む人たちは、何によって生計をたてているのであろう?家畜の姿は見当たらず、子供たちの遊ぶ姿が、小さく見えたが、何とも不思議に思われる集落であった。

6. 公園看板

7. 公園入り口

8. 山麓の集落
◆ チャチュール峠(Chakor Pass)でカシミールを望む(4,266m)
 13:50 インド国境まで約40km。なだらかに広がる草原を東の方行に向って走った。このあたりの標高は凡そ4000メートル、さすがに気温も低く吹く風が冷たい。草原に立ち木はなく、四方に山並が小さく見えた。南の方角に連なって見える山はインドとの国境に聳えるヒマラヤ山脈の一部であろう【写真右】。美しく見えるその山麓一帯が、カシミールである。長い年月戦火が絶えず、今もなお紛争の治まらない悩み多い地帯である。カメラマン達は三脚をたて、望遠レンズでしっかり撮影していたようだが、此所からの眺めは音も煙りもなくひたすらに美しいだけのく平和な景観であった。
国境の山々とカシミールを望む→

◆ シャオサル湖(Shaucer Lake)畔で昼食 (4,220m)【写真10】 13:55-15:15
 高原の彼方に小さく見えていた湖が、みるみる大きく視界に広がり、ジープは湖畔でエンジンを停めた。湖面を渡ってくる風は冷たかったが、爽快な空気と眺めを楽しみながら、持参のランチを大急ぎで済ませた。寸暇を惜しんで、僕はジープの中に陣取って湖の写生にとりかかった。風が強くなり、雲の動きは刻々と変化した。

10. シャオサル湖畔

11. 隊商とすれ違う
 広大な広がりを見せる高原には只1本の道が遥か彼方まで伸びていた。その道を更に東に向って走っていく途中、馬を連れた隊商とすれちがった。先頭を歩く男は真直ぐ遠くに視線を定め、馬のくつわを引きながら大地を踏みしめ力強く歩いていた【写真11】。馬の後には荷物を背にしたロバたちが従い、すれちがうジープには眼もくれず1列になって黙々と歩く。相当長い距離を歩いてきたのであろう、俯きかげんに歩く馬たちの足取りは重く疲れている様に見えた。何処まで行くのであろうか、男二人に連れられた馬やロバの姿は、ジープが巻き上げる土ほこりの中に、消え去っていった。


◆ カラパニ(黒い水の意味)川を渡渉する
 16:10 道は川の流れにクロスして消えた。ドライバーは迷うことなく、その川の中に静かに車を進め【写真12】、ゆっくりとしたスピードで進み対岸へと渡った。其処から又道は続いていたのだから、川床が道であった訳である。本来ならば、橋が架けられている所であろう。道は地平線の彼方に消えていたが幸いにして空は蒼空【写真13】、車を停めてもらって一息入れる。腕を回し、腰を伸ばし、深呼吸をする。ふと足元をみたら、吹く風に身を震わせながら白い花が咲いていた【写真14】。背丈20センチ位で痩身。艶も潤いもなくしたその姿には、痛々しい美しさを感じてしまった。この高原で見た、只一つの花であった。
 いつの間にか、目指す方向の空には黒い雲が広がりはじめていた。太陽は西に傾き、草原に明るい輝きはなくなった。

12. カラパニ川を渡渉する

13. 蒼空の高原を行く

14. 高原に咲く花


◆ バラパニ河畔でキャンプ
 16:43 バラパニ(大きな水の意味)川のつり橋【写真15】を渡った所が、今夜のキャンプ地であった(3,915m)。ホテルの看板を見つけ、思わず笑ってしまった【写真16】。矢印の示す方向にはホテル(テント)建設用の敷地があるだけであったが、一張りあるテントに近づいてみたら、何とそれは売店であった。ビスケットなど色褪せてしまったパッケージの商品が小さなケースに並べられていたが、果たして商いになるのであろうか?キャンプ場のはずれには、小さな仮設のトイレも在った【写真17】

15. 吊り橋を渡る

16. デオサイホテル

17. テントサイト
 みんなで力を合わせ、大急ぎでテントを張った。そして急いでテントに潜り込み、羽毛の防寒着を引っ張り出した。間もなく夕暮れに包まれるであろう高原は静まりかえり、その中を、取材の為に遅れてしまった1台のジープが、土ほこりを巻き上げながら走って来た【写真18】。(ドキュメンタリーフイルム制作の為に、同行しているプロカメラマン専用のジープ)
 日没と共に気温は急速に低下した。雲も低く広がりを見せはじめ、吹く風も冷たさを増した【写真19】。大きなテントの仮設食堂に全員集合、湯気のたつ料理で体を暖めながら賑やかに食事を楽しんだ。テントの外は、星の光もなく正に暗闇であった。ヘッドランプの灯りを頼りに自分のテントを探し、羽毛服を着たままシュラフに潜り込んだ。

18. キャンプ地へ急ぐ

19. 夕暮れ迫る
 夜中になって、雨が降り始めた。テントを打つ雨音は、耳を傾けるとはじめてそれと分かる程度の静かなものであった。トイレに1度起きただけで、あとは夜明けまで眠ることが出来た。

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