★ 2000 のんびり・スイスの旅
スイス国旗  ◆ 20日目(7月30日) 一時小雨 【全体地図】 目次へ
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【本日の旅程】=クール(泊)、→リヒテンシュタイン公国訪問


リヒテンシュタイン公国 国旗
 今日も朝からすっきりしない天気である。昨日果たせなかった町中の散策をしてみようと思った。しかし、「リヒテンシュタインは此所から近いのよ」と何度も家内が言う。要するに、そちらの方に行ってみようじゃないか、と言っている訳である。彼女は以前訪ねたことがあるが、僕はまだ果していないので気持ちが動いた。
 リヒテンシュタイン公国 <Principality of Liechtenstein>は、ヨーロッパ第4の小国である(※)。東西約10km、南北約24km、面積約160平方キロメートル。日本でいうと瀬戸内海の小豆島と同程度、あるいは東京都世田谷区が2個分ほどの面積である。僕には切手の国としての認識しかなかったが、今では高度な工業製品の分野ではヨーロッパ随一を誇っているのだそうだ。行ってみることにした。
(※第1:バチカン市国、第2:モナコ公国、第3:サンマリノ共和国)
お薦めサイト:【外務省内 リヒテンシュタイン公国のページ】


◆ ファドゥーツ城を訪ねる
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ファドゥーツ行きのポストバスに乗る

ファドゥーツの観光用SLバス
 クールからサルガンス<Sargans>まで鉄道で20分足らず。ここからファドゥーツ行きのポストバスに乗り換えた【写真上左】。バスはガラ空き。僕らの他に一人の若い日本人女性と子供連れの日本人夫婦が乗り合わせた。若い女性は、サッと最後部座席に行ってしまい、子供連れの若い夫婦は仕方なさそうに挨拶を返してくれた。何故だろう。日本人に出合ってしまい、気分を害してしまったのだろうか?例え望まぬ出合いであったにせよ、挨拶くらいは気持ち良く交換してもよいではないかと思う。いささか寂しい気持ちになってしまった。

 約30分の乗車で、リヒテンシュタインの首都、ファドゥーツ<Vaduz>に到着した。 残念ながら小雨。やむなく雨具を着る。切手博物館で雨宿りしようかと思ったが、日曜は休館。小雨ではあるが、空は明るいのでファドゥーツ城<Schloss Vaduz>を訪ねてみることにした。それは山の上にあり、現在は君主であるハンス・アダムス2世侯爵が住んでおられる居城である。
 さすが切手で有名な国である。メインの通りには切手を専門に売買する店があり、土産品店には必ず古い切手などが沢山並べてあった。広場周辺は歩行者天国になっており、通りには玩具のようなSLバスが走り観光客で賑わっていた【写真上右】

 店の人に道を尋ね、城への近道という、きつい坂道と石段を登る。130段余りあり、少し息が切れた。途中から遊歩道になり、それは濃い緑陰の中に在って、静かで緩い坂道になっていた。いつしか雨は降り止んでいた。道には国の歴史や仕組みを解説する掲示板が立てられてあり、ファドゥーツの街を俯瞰することが出来る展望所もいくつかあり、そこここで一休みしながらのんびり登った。次第に雲が切れ、白い雲は忙し気に動き、雲間からは陽もさし始めた。木陰から展望出来る街並みは、雨に洗われて爽やかな美しさに輝いていた【写真右】
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ファドゥーツ城への坂道より市街を見降ろす→

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眼前に現われたファドゥーツ城
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ファドゥーツ城 <Schloss Vaduz>
【油彩画の完成作品はこちら】 【油彩画の完成作品はこちら】

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ポスターの場所付近?から見た
ファドゥーツ城 遠望
 林を抜け出たら、そこに目ざす城が在った【写真上左】。きれいに手入れされた芝生に囲まれ風格のある美しい城であった【写真上右】。写真では見ていたけれども、やはり実際に近くで眺めてみるのとは大違いである。早速、スケッチブックを拡げて写生に取り掛かった。2枚目が描き上がった頃、冷たい風と共に再び雲は集まり始め重なりあい、景色は見る間に生気を無くしていった。いつの間にか観光客の姿も全て消えてしまっていた。

 観光局の壁に貼ってあるポスターや絵はがきになっているファドゥーツ城は、ここからのアングルとは異なった姿である。背景には峨峨たる険しい岩山や雪山があり、いかにも高い岩上に建つ城のイメージを強調していて魅力的である。観光局のお姉さんにそのポスターを指差し、何処から見た写真なのか、その撮影場所を尋ねた。多分・・・と言い乍ら教えてくれた川沿いの道を歩いてみた。確かに見上げて見える城の姿はポスターのそれに似ていたが【写真】、やはり違う。結局、ヘリコプターからの撮影だろうと思うことにして、探すのは諦めた。
 街中に特別見たいものもなく、天候も落ち着かないので帰途につく。帰りのバスも空いていた。サルガンスで電車に乗り継ぎ、座席に寛ぐ。天候は再び持ち直していた。車窓をゆったり流れる景色に陽が当たり始め、近くに見えてきた山肌も日差しを受けて美しい。ハイジの里・マイエンフェルトの山々であった【写真右】
 「降りようか?」と家内が言う。5時半、未だ陽は高い。気持は大きく動いたが、聞き流す。「疲れたよ・・・」「腰が痛いな・・・」顔をしかめ何度か呟いていたではないか。
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マイエンフェルトの山々

◆ レストランの片隅で
 6時半、ディナータイム。レストランは、ドイツからの団体客で大賑わい。僕らは片隅の大きなテーブルに座らされた。同じテーブルの端には老いた男性と中年の女性が食事をしていた。その男性の隣に距離をおいて白髪のくたびれた老人が一人、黒ビールをすすり乍ら新聞を眺めている。対照的に静かで暗いテーブルであった。僕らが席に着くとすぐに若い男性客があり、老人の向かいの席に案内された。元気よくオーダーを済ませて人待ち顔である。間もなくはつらつとした女性が現れ、うれしさ一杯の笑顔で男性としっかり抱擁、僕の目の前で濃厚なキスの挨拶を交わした。恋人同士、周りの人間なんて眼中にはなくなるのであろう。向かいの老人も眺めていた。僕と目が合うと無表情に又新聞に目を落した。
 テーブルの端に居る中年二人は悲しく寂しそうであった。時々お互いを見つめ合い食事もなかなか捗らない。二人の横顔は堅く、とても切なく辛い心境であることが伝わってくる。僕は喉の乾きを覚えて小ビンのビールをオーダーした。隣に座った若いカップルは、料理がなかなか運ばれてこないので、地下の酒蔵を見学しよう、と席を立った。それまで遠慮していたのだろうか、中年の二人がしっかり手を取り合い、やがて男性は両手で彼女の顔を包むようにして静かにキスをした。この二人も肩よせ合い二人だけの世界は見えない壁に包まれているようであった。老人は静かに見守り、僕はそっと視線をはずしてビールを飲んだ。重い沈黙が流れ、団体客の賑やかな喧噪は、遠くに聞こえた。

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